若冲や応挙の作品を見に、京都・嵐山の2つの美術館へ。
緊急事態宣言で閉館していた美術館も少しずつ、開館し始めています。京都・嵐山にある福田美術館、嵯峨嵐山文華館も5月23日から再開館しました。
福田美術館は2019年10月にオープンしたばかりのまだ新しい美術館。桂川沿いに隠れるようにして建っています。嵯峨嵐山美術館は2006年に「百人一首殿堂 時雨殿」として設立、2018年に「嵯峨嵐山文華館」と名称を変更してリニューアルオープンしました。2館は歩いて5分ぐらいの距離。福田美術館では伊藤若冲が、嵯峨嵐山文華館では円山応挙と長澤芦雪の作品が楽しめます。
伊藤若冲はこれまで何度も展示が行われてきた超人気作家ですが、福田美術館で開催中の『若冲誕生〜葛藤の向こうがわ』展にはちょっとレアな作品が並びます。中でも新しく発見された《蕪に双鶏図》は今回が初公開。これまで最初期の作品とされてきた《雪中雄鶏図》(細見美術館蔵)よりさかのぼるかもしれない、もっとも初期の彩色画の可能性がある一枚です。
これは蕪の畑の中を二羽の鶏が歩いているという絵なのですが、蕪の葉が病葉(わくらば)だったり虫に食われていたりします。若冲は他の絵でもこういった完全でない葉をよく描いていますが、この描き方は念入りです。細密でリアルな描写でありながら、現実にはちょっとありそうにない光景なのです。中央の雄鶏の首の曲がり具合も独特なもの。《動植綵絵》なみの力の入れ方は、若冲が後期に「斗米庵」(とべいあん)などと名乗って量産していた軽妙洒脱な水墨画とはまた違うものです。
その他にも約30件もの初公開作品が並びます。《雲中阿弥陀如来像》は雲の間から御姿を現した阿弥陀如来を描いたもの。信心深いことで知られた若冲ですが、仏画はこれを含めてもあまり数がありません。《芦葉達磨図》は蘆(あし)の葉に乗って揚子江を渡る達磨を描いたもの。ギリシャ彫刻のような衣のドレープは筋目描きで表現されています。
《蟹・牡丹図》はすばやく走り去る様子が目に浮かぶような構図の衝立。若冲は蟹の種類によって違う甲羅の質感も描き分けています。
福田美術館には若冲以外の絵師の絵も。太い筆でぐりぐりと描いた白隠慧鶴《金棒図》には「正しい行いをすれば極楽へ行ける」という意味の賛が書かれています。
嵯峨嵐山文華館では若冲と同時代の絵師、円山応挙とその弟子、長沢芦雪が競演する『いちからわかる円山応挙と長沢芦雪』展が開かれています。写生を重視したことで知られる応挙は、この展覧会には出品されていませんが、博物誌のような写生帖(スケッチブック)も残しています。その弟子の芦雪は“奇想”と称されることもある絵師。こちらも今回は展示されていませんが、無量寺の襖に本物よりも巨大な虎を、切手大の紙面に五百羅漢を描くなど、人々をあっと言わせる絵で人気です。
この展覧会では同じ画題を二人の絵師がどう表現したのかを比べられるコーナーがあります。正面からこちらを見据え、毛の一本一本まで描かれた師匠の虎と、水をたっぷりと含ませた筆で毛並みを表現する弟子の虎の対比からは、応挙は生真面目で芦雪は茶目っ気のある人だったのかも、といった想像が膨らみます。
応挙・芦雪の師弟コンビといえば仔犬です。今すぐモフりたくなる応挙の犬は当時から大変人気がありました。芦雪も基本的には師の表現を踏襲していますが、毛並みの表現などを簡略化することがあります。
小品ですが、応挙の風景画も見逃せません。西洋の一点消失法による遠近法を参考にしているのです。葛飾北斎の作品にも西洋絵画を参照したものがありますが、応挙のほうがより原則に忠実なように思われます。
一方、芦雪は動物や人物では大胆な省略やデフォルメをすることがあります。彼は破天荒な性格とも伝えられ、大坂での客死は毒殺だったとの説まであります。いずれにしてもそこここにユーモアを感じさせる作風は写生を旨とすべし、とした師の応挙とは違うものを感じさせます。
これから暑くなりますが、桂川沿いの散歩は気持ちのいいもの。2つの美術館にはそれぞれ、庭や嵐山が眺められるカフェもあります。200年前の絵師たちが筆を持ち、紙に向かっていた姿を思い浮かべながらのんびりと過ごせます。
『若冲誕生〜葛藤の向こうがわ』
開催期間:開催中〜2020年7月26日(前期〜6月29日、後期7月1日〜7月26日)
開催場所:福田美術館
開館時間、休館日、入場料などは公式サイト参照
『いちからわかる円山応挙と長沢芦雪』
開催期間:開催中〜2020年7月13日(前期〜6月22日、後期6月24日〜7月13日)
開催場所:嵯峨嵐山文華館
開館時間、休館日、入場料などは公式サイト参照